時々ネットニュースやX(旧Twitter)で、定期券やSuicaなどの交通系ICカードを券面に記載された人以外が利用して、駅員とトラブルになるという話題。
赤の他人はともかく家族間でもダメなのかといった声や、中には購入時に駅員が説明していないのがおかしいといった声もあります。
ここでは定期券やSuicaなどの交通系ICカードの記名人以外の使用について見ていきましょう。
定期券は記名人以外は使えません
(定期乗車券が無効となる場合)
第168条
定期乗車券は、次の各号の1に該当する場合は、無効として回収する。
(1)定期乗車券をその記名人以外の者が使用したとき。
(JR東日本 旅客営業規則より)
バスや鉄道の社局によっては持参人有効と記載のある定期券があり、この場合はその定期券を持っている人であれば誰が使ってもよいわけですが、大半の鉄道やバスの社局では記名人のみが使えることになっています。
旅客営業規則という「約款」によって定期券の使用を制限しているわけですが、同じ区間を毎日のように往復する利用者向けに、通常の料金より大幅に割り引く代わりに、使用者に関して制限を設けているわけです。
Suicaなどの交通系ICカード
(制限事項等)
第24条
6.記名Suicaは、記名人以外がICカード乗車券として使用することはできません。
(東日本旅客鉄道株式会社ICカード乗車券取扱規則)
交通系ICカードには記名式と無記名式があります。
このうち記名式には、個人を特定する氏名、性別、生年月日等の情報が記録されおり、これらの記録がないものは無記名式です。
記名式の良いところは、紛失時に再発行されることですね。所定の手続きを取ればチャージしていた金額、交通系ICカードに載せていた定期券の情報を引き継いで、再発行されますからね。
無記名式はこれらの保障が無い代わりに、持参した人が自由に使えます。
それに対して記名式の交通系ICカードは記名人以外は使用できないことが、規則にも明記されています。
定期券を載せた交通系ICカード
Suicaなど交通系ICカードに定期券を載せて使用している方も多いと思います。定期券自体が記名式ですし、定期券を載せる交通系ICカードも記名式となります。
このため、定期券の区間内は記名人だけしか使えないけど、定期券の区間外は誰でも使えるわけではありません。
記名式のSuica(交通系ICカード)は、記名人以外がICカード乗車券として使用することはできませんという規程に抵触してしまいます。
載せていた定期券の有効期限が切れた交通系ICカード
SuicaやICOCAなどの交通系ICカードに定期券を載せて使っていたけど、定期券の有効期限が切れたので交通系ICカードとして使用している、こういう方も多いですよね。
この場合ですが、定期券の有効期限が切れたとしても交通系ICカードは記名式のままですから、記名人以外は使用することができません。
子供が使っていた通学定期券を載せたSuicaがあるけど、子供は学校を卒業して誰も使わないまま家にあるけど、もったいないから母である私が使おう…。
残念ながらこれもダメなんです。
あくまで記名人しか使うことができませんので。
ここまで見てきたように、記名人以外は使用できませんから家族であっても使用できません!
記名式の交通系ICカードを無記名式に変更できるのかはこちらの記事をどうぞ。
購入時に駅員から説明されていない
「記名人以外が利用できないことなんて知らなかった」という声もありますし、
「そもそも購入時に駅員から説明を受けていない」といった声もXでは見かけました。
たしかにSuicaやICOCAなど交通系ICカード購入時や、定期券を購入する時にそのような説明を受けることはありません。
そもそも、記名されている物を他人が使ってもよいとは普通の方は思いませんから、駅員がわざわざ説明する必要もないと個人的には思いますが…。
旅客営業規則をはじめ鉄道各社と利用者との間の規則(約束事・取り決め)がいくつかあり、これらの規則は約款と呼ばれています。契約を結ぶ場合は原則として契約内容を交渉などによって自由に決定します。
しかし数多くの人と取引をする場合、個々に交渉して契約内容を決めて、署名された契約書を作成して保管することはさすがにナンセンスです。
きっぷや定期券、SuicaやICOCAなどを購入する時にいちいち契約書を取り交わすなんてできません。
そこで不特定多数の人との取引を行う事業者が、あらかじめ定型的な契約条項(定型約款)を定めておき、大量の同じ内容の取引を早くそして効率的に行うために、約款にもとづいて契約を行います。
電車やバスなどの公共交通機関の運送約款、電気やガスの供給約款、生命保険等の保険約款、銀行の普通預金規定、サイトの利用規約など、身の回りには数多くの約款にもとづく契約が存在しています。
引越し先で電気を使う際に電話で申し込み、「ブレーカーを上げてください」と言われ、それに従ってブレーカーを上げて使用を開始しますが、約款に合意(みなし合意)したから申し込んだとされる点は定期券や交通系ICカードと同じということでしょうか。
詳しくは下記の三井住友銀行のHPのほか、法務省や弁護士事務所等HPをご覧ください。
よくそんな規則は知らないなどと駅などでは言われますが、約款には契約と同等の法的拘束力があるとされているため、残念ながら知らないという理屈は通りにくいと思われます。
1回だけ借りた定期券で不正乗車が見つかってしまい…
A駅からB駅までの6カ月定期券を夫に借りて、B駅で自動改札から出ようとしたところを呼び止められた。
駅員に定期券の提示を求められたので差し出すと、
「定期券の不正乗車になります」
「わたしは妻で夫の定期券を借りただけなのですが…」
「定期券は記名人以外が使うとダメなんです」
A駅からB駅までの普通運賃は230円なので、駅員に230円だけ手渡して定期券を返してもらい改札から去ろうとすると、
「この定期券は無効になるので回収します、それと請求金額はこちらで計算しますのでしばらくお待ちください」
えっ? 無効で回収? 230円だけ払って終わりじゃないの?
(定期乗車券が無効となる場合)
第168条
定期乗車券は、次の各号の1に該当する場合は、無効として回収する。
(1)定期乗車券をその記名人以外の者が使用したとき。
(JR東日本 旅客営業規則より)
夫の定期券を使ったわけですから、規則通りに無効となって回収されます。
こう説明すると〝払い戻してくれ!〟とおっしゃる方がいますが、無効になっているために払い戻しは当然ですが0円です。
(定期乗車券等不正使用旅客に対する旅客運賃・料金の収受)
第265条
第168条第1項の規定により定期乗車券を無効として回収した場合は、当該旅客から次の各号による普通旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃とをあわせて収受する。
(1)その定期乗車券の効力が発生した日から、無効の事実を発見した当日まで、その定期乗車券を使用して券面に表示された区間を、毎日1往復(又は2回)ずつ乗車したものとして計算した普通旅客運賃
(JR東日本 旅客営業規則より抜粋)
この規程によって、定期券の有効開始日から不正が見つかり定期券が無効とされた日まで、毎日往復利用したものとして扱われます。
定期券の有効開始日が4月1日で見つかったのが8月20日とすると…。
142日×230円×2(往復分)=65320円
増運賃が65320円×2=130640円
合計で195960円請求されます。
定期券の貸し借りは絶対にやめましょうね。