東海道山陽新幹線の「のぞみ」が多客期(GW、お盆、年末年始)には自由席を廃して、全車指定席で運転されるようになりました。
ただし座席は使えないものの、デッキなどで立って乗車する分には自由席特急券や新幹線定期券での乗車は可能です。
昔からよくあるのですが、
「子供が外を見たいから席を替わってほしい」
「家族で並んで座りたいから席を替わってほしい」
自由席特急券で乗車しているのに指定席の客に向かって、
「その座席を譲ってほしい」
断ると何だか悪い事をした気分になるし、替わってあげるべきだったのかなとは思いますよね。
それはあくまで気持ちの部分ですが、規則としてはどういう取り扱いになっているのかを見ていきましょう。
指定席で座席を替わると
それでは規則ではどう書かれているかから見ていきます。
規則(営業規則)では「急行」という文字がよく出てきますが、「急行」には「特別急行」と「普通急行」を含めます。「特急」とは「特別急行」を略した呼び方で、きっぷ類に関する規程では新幹線の特急券も「急行券」の一部として扱われます。
以下に今回の説明で基本となる規程の一部を抜粋しておきます。
(2024年10月1日時点でのJR西日本の営業規則から抜粋しています)
(用語の意義) 第3条
⑴の6 「新幹線」とは、東海道本線(新幹線)、山陽本線(新幹線)、鹿児島本線(新幹線)、東北本線(新幹線)、東北新幹線、高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)、信越本線(新幹線)、北陸新幹線、九州新幹線、北海道新幹線、長崎本線(新幹線)及び西九州新幹線をいう。⑷ 「急行列車」とは、特別急行列車及び普通急行列車をいう。
⑼ 「指定券」とは、乗車日及び乗車列車を指定して発売する急行券(以下「指定急行券」という。)、特別車両券(指定席特別車両券(A)及び指定席特別車両券(B)に限る。以下これらを「指定特別車両券」という。)、寝台券、コンパートメント券及び座席指定券をいう。
この辺りのことに目を通していただくと、比較的わかりやすくなるかなと思います。
(指定席)特急券の効力
(急行券の効力) 第172条 指定急行券を所持する旅客は、その券面に指定された乗車日、急行列車、旅客車、座席及び乗車区間に限つて乗車することができる。
(急行券が無効となる場合) 第174条 急行券は、次の各号の1に該当する場合は、無効として回収する。
⑷ 使用を開始した急行券を他人から譲り受けて使用したとき
⑼ 指定急行券を指定以外の急行列車、旅客車又は座席に使用したとき
実はこの条文がすべてを語っていまして、あなたが持っている(座席が指定されている)特急券は券面に記載された座席だけで有効で、他の席に座るとその効力を失います。
また座席を替わるために持っている特急券を交換してもその時点で無効となります。
「家族で並んで座りたいから座席を替わってほしい」
座席を替わったあなた、そしてあなたと座席を替わった人、ともに特急券は無効となってその列車に乗車することもできなくなります。
※乗り遅れた場合は(指定席)特急券で当日中の特急の自由席に乗車できるのはあくまで「乗り遅れた場合」の特例で、今回の事例の場合は特急券が「無効」になるので自由席に乗るにしてもあらためて自由席特急券の購入が必要になります。
座席を譲ってほしいとお願いされたら
自由席の場合は席を譲るか譲らないかは、あくまであなたご自身の判断に委ねられます。鉄道社局側があなたに「この座席に座りなさい」と指定したものではありませんし、せっかく座っているのに席を譲って立つことも鉄道社局側はあなたにお願いしたりもしません。もちろん規則にそんなことを定めてもいませんし。
ただしあなたが「指定席」に座っているとすれば、それは話は別です。
全車指定席で運転している新幹線「のぞみ」のデッキに立っている年輩の方がいて、その周りの方があなたに、
「まだ若いのだからお年寄りと替わってあげてください」
そんな事を言われたとしても、座席を譲ってはいけません。
(座席指定券の効力) 第182条の4 座席指定券を所持する旅客は、その券面に指定された列車、旅客車若しくは座席に限つて乗車することができる。
あなたが持つ(指定席)特急券は指定された座席に限って乗車することができる、つまり座席を譲ってデッキに立つという行為はこの条文に反することになります。
かなり昔のことですが、ダイヤが大幅に乱れてかなりの混雑が発生し、自由席の客を指定席のデッキだけではなく座席横の通路にまで立たせたことがありました。
博多から新大阪までの(指定席)特急券を乗車前に購入できたので座っていたのですが、横に立つ人が、
「うちのおじいちゃん足腰が悪くて、申し訳ないですけど替わってもらえませんか」
そのおじいさんは通路にカバンを置いてそこに座っています。
当然ですが私は座席を譲りませんしその必要もない、なんてことを経験したことがあります。
そもそもの話ですが、自由席特急券で乗車していて指定席の客に席を譲ってほしいというのは、ただ図々しいだけ。無視で良いと思います。
乗り遅れた場合は自由席に乗車できるが
(指定席)特急券を持っている心優しいあなたは、自由席特急券しか持っていない子連れの方に座席を譲りました。自由席の車両を見ると、なんと一カ所だけ座席が空いている。
「7両も8両も子連れの方に移動させるのは気の毒だし、私も座れたから特に文句もないな。(指定席)特急券は当日中ならば自由席に乗れるから何の問題もないし…」
乗り遅れた場合の救済措置として、指定された特急列車の乗り遅れた場合は当日中の特急列車の自由席に乗車できます。後続の特急の指定席に乗車する場合は(指定席)特急券を買い直さなければいけません。この場合手元の(指定席)特急券は無効になり払い戻しも受けられません。
乗り遅れた場合に限って救済措置として例外的に認められたもので、規則上は乗り遅れた場合は無効です。
座席を譲って自由席に移ったりデッキに立った場合、救済措置は適用されず手元の(指定席)特急券は無効になり自由席への乗車も認められません。
気持ちはわかるけど替わったり譲ってはいけません
ここまで見た来たように、指定席同士を交換して座席を替わったり、誰かに指定席を譲ることは規則上認められていません。
小さなお子さんがいたり、かなりの年輩の方がいる場合に、その方の家族に席を替わってとか譲ってと言われると、周りの目もあり替わらなきゃいけないのかなと心が折れそうになりますよね。
そういう時は車掌に、
「わたしは座席を替わりたくないのだが、しつこく替われ(譲れ)と言われて困っている」
と事情を話してみましょう。
規則上ダメなわけですから車掌のほうから先方に、
「座席を替わることはできません」
と言ってもらってあきらめてもらうのが一番良い解決法です。
座席を替わってほしいとか、座席を譲ってほしいと言われる側は本当に迷惑です。多客期だと早めに特急券を購入したり、空き時間を使ってキャンセルされた座席を見つけて購入したわけです。それだけに軽々しく座席を替わってほしいだなんて言わないでもらいたいと、筆者は真剣に思います。